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バックナンバー【PC GIGA 2006年5月号掲載】
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『チェンマイの毛沢東(その1)』
プォエーッポエッポエッポェッという脳天気な演歌のサビで目を覚ますと、車窓を隔てた町並みが紫色に染まっていた。
タイ北部の古都・チェンマイは、バンコクから夜行バスで約12時間ぶっ飛ばした場所にある。一年ぶりの北タイ訪問だ。
かつてはひなびた田舎町。いまやその面影はかけらもなく、騒がしいだけの商業地。周囲の山岳地帯には今も多くの少数民族が暮らし、チップをはずめば伝統的な暮らしを見せてくれるし、夜になれば阿片を吸わせてもくれるそうじゃが(伝聞系)、歩くのもかったるいし、宿でだらだらハシシなんて決めるのもウシシ。と、万死に値するジョーク思い浮かべ、古びたホテルで仮眠を取った。
二、三時間休むつもりで意識を失い、ハッと気がつけば夕方。仮眠どころか八時間もフル充電してしまった私は、空きっ腹をかかえ、げんなりしながら外へ出た。さて、どこで飯を食おうか……。
チェンマイは盆地のバンコクと比べて涼しく、人々も素朴(思いこみ)というわけで、日本から来た年金暮らしの老人が大勢いることでも有名だ。そんな爺さん婆さんの多くが日本食を求めるため、チェンマイの日本食は非常に充実している。で、最も安く、あらゆる意味で有名なのが「宇宙堂」というお店である。
この店のターゲットは貧乏バックパッカーや食い詰めた長期滞在者。財布の軽いほうをメインにするという常識はずれの宇宙的発想で大繁盛──という噂がプノンペンまで鳴り響いていた。
どっかの少数民族かと思いきや、実は日本人のお兄さんとか、上から下までゴルフウェアを着こなした小粋な買春おやじ、両者どちらにも属さない、銭湯に行くみたいな格好をした得体の知れないおっさんに混じり、各種ボランティアの爽やかな人々など、本来ならエロ親父軍団と敵対する筈のグループまで顔を見せるそうだ。「チェンマイに長くいます」という共通項を絆に、ありとあらゆる階層のチェンマイ愛好家たちがたむろし、思い思いの時間を過ごす。それが宇宙堂なのである。
地図をたよりに探し回ると、チェンマイ随一の観光名所。ターペー門にほど近い裏路地に古びた食堂を見つけた。二軒間口の細長い店には植木が沢山置かれ、食堂というより植木屋みたいな雰囲気。入店すると同時にのんびり将棋を指す二人組のやさぐれ風な親父を発見。胸の鼓動が早くも高まる。
さて、やる気のなさそうな店員からメニューを受け取ってびっくり。定食が100バーツ!(約四百円)。食い詰め者にはかなり厳しい価格設定だ。よく見ると、並み居るおっさん軍団はみーんな飯なんて食わず、皆コーラとかビール片手に席を占領している。
オムライスを注文した私は、真剣な眼差しで黄ばんだゴルゴ13に読みふけり、ゴルゴと情婦のセックスシーンでふと手を止め、今夜の買春行為に向けて鋭気を養うおっさん軍団を横目で見ながら席を立ち、軽く店内を歩きながら偵察活動に入った。
この店、古本屋も兼ねているので、店内至る所で古本が山積み。そんな本の山と山の間に、『店売ります──吾郎』という味もそっけも(連絡先も)ない張り紙が風になびいていたのが印象的といえば印象的だったけど、店の客は概ね口数少なく、静かに思い思いの趣味にふけり、プノンペンの安食堂で女性器の名前を連呼する下卑た怪物を見慣れた私には何となく物足りない。
出てきたオムライスもごくごく普通で、何だか肩すかしを食った気分。もやもやしながら、そばにあったチェンマイ在住者用のフリーペーパーをめくるも、毒にも薬にもならない、当たり障りない内容ばかり……とそのとき、個人交流欄に記された「もういい会」という単語に視点がロックされた!
「もういい会」とは、チェンマイ・チェンライ長期滞在者の親睦会。毎週水曜の夕方四時から某ホテルで会合を開いているという。参加は自由だそうで、ちなみに今日は水曜日。時計を見ると神に運命づけられていたかのように、午後四時ちょっと前だった。
とまあ、前置きだけで終わってしまいましたが、私はこの「もういい会」でSクラスの猛獣と遭遇。久しぶりのビッグ・ハンティングと相成りました。詳細は次回をお楽しみに。
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